事務所ブログ

2014年1月17日 金曜日

不動産賃貸借②【原状回復】

弁護士の狩野です。
前回に引き続き、不動産賃貸借の問題を取り上げます。
今回は、原状回復に関する問題です。
賃貸借契約が終了した際の原状回復費用は、賃貸人と賃借人のどちらが負担すべきでしょうか。
「居住用物件」と「事業用物件」に分けて説明します。

①居住用物件について
 賃貸借契約では、通常の用法に従って使用していた場合に発生する物件の損耗は、貸主が負担することとなります。なぜならば、これらを修繕するのに必要となる費用は、賃料に加味されていると考えられるからです。
 したがって、借主は、通常の使用によって劣化したクロスや畳・フローリングを新品に交換する義務はないと考えられています。
 これらが借主の負担となるのは、借主側の使用方法に問題があり、借主が善管注意義務(善良な管理者に求められる注意義務)に違反した場合です。
 なお、クロスや畳・フローリングに傷がついていた場合であっても、全面交換ではなく、当該部分のみに留めるべきです(国土交通省住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(改訂版)』)。

以下に具体例を挙げます。
・クロスや畳の日焼け等の経年劣化は、通常の使用の範囲内なので貸主負担。
・タンスやベッド等の家具を置いた跡も貸主負担。
・冷蔵庫による電気ヤケは貸主負担。
・画びょう等の小さな穴は、通常使用の範囲内として貸主負担。ただし、下地のボード部分の交換が必要な大きな穴は、借主負担。
・カビは借主負担。ただし、建物の構造上、結露が発生しやすいといった事情がある場合には、貸主負担となることがある。
・タバコのヤニによるクロスの変色で、清掃しても落ちないようなものは借主負担。
・換気扇の油汚れで、通常の手入れを怠っていたことにより付着したものについて借主負担。

 ところで、この点に関し、通常の使用による損耗を賃借人の負担とする特約を設けている契約書もありますが、このような特約は、賃借人に不利な条項として、消費者契約法により無効となる可能性があります。貸主としても、契約書に書いてあることが全てと考えていると後日のトラブルの原因となるので注意が必要です。

②事業用物件について
 事業用物件についても居住用物件同様、賃貸借契約である以上、通常の用法による損耗は賃料に加味されることは同じです。
 しかし、居住用物件では、事業者対消費者の契約となるのが一般であるため、消費者保護を図る必要があるのに対して、事業用の場合は、事業者対事業者という対等の当事者同士の契約となるため、契約自由の原則が働きます。
 したがって、事業用の契約では、通常使用による損耗を賃借人の負担とする特約も有効となる場合が多いと考えられます。
 このようなことから、事業用物件の契約においては、原状回復の範囲を契約書において明確に規定することが重要です。
 事前に用意された雛形を使うことも多いと思いますが、個別の物件の事情に応じて特約を設けるべきであると言えます。

 原状回復はトラブルの起こりやすい場面といえますが、その多くは、貸主と借主との認識の相違が原因となっていることが多いのではないでしょうか。
 トラブルを防止するためには、借主においては、貸主と事前にきちんと話し合ったうえで、その内容を特約として契約書に反映させること、貸主においては、重要事項の説明を丁寧に行うことが重要であると言えます。

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投稿者 ノモス総合法律事務所

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