事務所ブログ

2013年12月13日 金曜日

不動産賃貸借【建物賃貸借契約の終了】

 弁護士の狩野です。
 さて、弊所は不動産に関する問題を全般的に扱っておりますが、今回は、不動産賃貸借に関する問題として、建物賃貸借契約の終了による明渡しについての法律問題をご紹介します。

 建物賃貸借契約においては、期間満了による終了や解除による終了を理由として建物の明渡しを求めるケースがありますが、建物は借家人の生活や事業の基盤であることから、法律や解釈によって賃借人の権利が保護されています。
 

①期間満了等の通常の終了 ⇒「正当事由」が必要
 賃貸借契約が契約期間の満了によって終了する場合でも、貸主は、当然に物件の明渡しを求めることができる訳ではありません。
 貸主が、契約を更新しない場合には、借家であれば6か月前に更新拒絶の意思表示をする必要があります。また、この更新拒絶には、「正当事由(明渡しを求めることが正当であることを理由づける事情)」が必要です(借地借家法28条)。
 「正当事由」には、建物が老朽化したために建て替える必要がある等様々な事情がありますが、裁判実務においては、単純に賃貸人側で使用するためといったものでは足りないとされています。
 また、「正当事由」が不十分な場合に、これを補完する事情として「立退料」があります。立退料には、一定の相場があるとは言われていますが、個別の事情によって金額は変わってきます。なお、居住用物件よりも事業用物件の方が、金額が大きくなる傾向がありますので、事業用物件の明渡しを求める場合には、事前の準備が重要となります。
 なお、契約締結時点において将来的に自己使用することが分かっているのであれば、定期借家契約(借地借家法38条)を活用するという方法もあります。

②解除による終了⇒「信頼関係の破壊」が必要
 借主に賃貸借契約上の義務違反があっても、直ちに契約を解除することはできません。賃貸借契約は、お互いの信頼関係を基礎とする継続的契約関係であることから、判例においては、賃貸借契約を解除するためには、賃貸借契約を継続することが困難であるといえるような「信頼関係の破壊」が必要であるとされています。

<賃料不払いによる解除>
 1か月や2か月の賃料の滞納があった時点で、直ちに解除できると定めている賃貸借契約書(以下、「契約書」といいます。)が多くありますが、信頼関係の破壊は、諸般の事情を総合的に考慮して判断することになるので、契約書に書いてあるからといって、直ちに解除できるわけではないことに注意が必要です。
 なお、賃料不払いによる解除の場合、滞納が3か月分に達することが信頼関係破壊の一つの目安と言われていますが、敷金・保証金の額や、過去の更新状況等一切の事情を考慮して判断することになるので、一概に3か月分の滞納があれば、確実に解除できるわけではありません。
 一方滞納額が1か月程度であったとしても、過去に滞納が続いていた、滞納分を一度清算したあとに再契約した等といった事情がある場合には、解除が認められることがあります。こういった特殊な事情は、契約書の特約事項として記載する等して、記録化しておくことが望ましいでしょう。
 
<用法遵守義務違反による解除>
 用法遵守義務違反による解除についても、その違反が信頼関係を破壊するに足りるものであることが必要です。特に事業用の賃貸借の場合、賃借人の業務内容によっては、使用態様が賃貸人側の事前の想定よりも建物へのダメージを大きくするものであったり、近隣トラブルを招くものであったりすることがあります(飲食店による汚れや異臭、ペットショップによる汚れ、共用部分への生ゴミの放置、営業中の騒音etc)。この場合、契約書に使用目的を書くだけでは、後日、用法遵守義務違反の程度を立証することが困難となる場合があります。そのため、禁止される事項を契約書の特約等で明確に記載しておくことや、保証金の額に反映させるといった対応を取ることが望ましいと言えます。

 契約書は、トラブルになった場合ときの証拠となるだけでなく、賃貸人、賃借人双方の認識を共有する意味もあり、トラブルの防止にも繋がります。契約書に個別の事情を盛り込むことが望ましいことはいかなる契約においても当てはまることですが、継続的な関係であり、かつ不動産という高額の財産を扱う賃貸借契約においては、事前の合意内容の持つ意味合いはより大きなものであると言えます。


 今後も不動産賃貸借に関する問題を取り上げていきたいと思います。

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投稿者 ノモス総合法律事務所

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